共同事業・共同運航 6


今日は,空旅さんから希望のあった共同事業についてです.その前に,共同事業より緩い提携関係である共同運航 (コードシェア) について.

コードシェア

コードシェアというのは,同じフライトに運航する航空会社以外にも別の航空会社の便名が付いていて,それぞれがチケットを販売できる仕組みです.自社便が飛んでいなくても通しで発券でき,航空会社にとっては実際より大きなネットワークを展開しているように見せられて便利ですが,慣れない利用者にとっては混乱の元になることも少なくありません.

  • スターアライアンスの場合,加算マイル数計算には運航航空会社の表を使います.これだけならまだいいのですが,さらに算定の基準になる運賃クラスと,チケット上の運賃クラスが違うことがあります.これは,コードシェアしている航空会社の運賃クラスと運航会社の運賃クラスが違うことがあるためです.ワンワールドの場合は発券された運賃クラスと加算マイル表が使われますので,混乱はありません.スカイチームも,少なくともデルタに加算する限りは発券された運賃クラスで決まります.
  • 座席事前指定も面倒なことがあります.ユナイテッド便名のANAフライトだとANAに電話すれば可能でしたが,アメリカン便名のJALフライトの場合はJALに電話しても難しいことがあるようです.
  • コードシェア便のマイルやアップグレード券を使った事前アップグレードはほぼ不可能です.というのは,アップグレード処理は運航会社が行いますが,コードシェア便として予約している乗客は形式上自社の客ではないので,航空券を勝手にいじれないのです.出発間際 (24時間前?) にコードシェアでない本来の便名に切り替えられ,やっと処理できるようになります.
  • 慣れた人なら大丈夫でしょうが,チェックインは運航会社で行うというのも,ターミナルを間違えたりする混乱の原因になります.また,日系のつもりだったのに乗ってみてビックリ,ということもあるかもしれません.

共同事業

共同事業 (Joint Venture) というのはさらに進んだ形態で,一定路線の収益・コストを2社以上で分け合うというものです.例えばANAとユナイテッドは太平洋路線で共同事業を組んでいますので,どちらに乗っても収益は折半されます.ユナイテッドが嫌いだからといってANAに切り替えても,払ったお金の半分はユナイテッドに行ってしまうわけです (あくまでも例です).

ここで気になるのが,2社のフライトの質や搭乗率に大きな差がある場合はどうなるのか,ということです.当然ながらANAとユナイテッドは太平洋路線で全く同じ運賃を設定していますし,加算マイル数も運航航空会社による差はありませんので,ANAの方が機内サービスにお金をかけているとするとANAに乗った方が得,という考え方はできるかもしれません.

搭乗率に関しては,ANAの北米・ハワイ路線とユナイテッドの太平洋路線 (中国などANAとの共同事業の対象外路線を含む) を比較してみました.

ANA ユナイテッド
2015年1月 70.5% 81.1%
2015年2月 67.8% 80.2%
2015年3月 77.7% 82.9%

ユナイテッドの数字は日本路線だけを取り出していないので詳細はわかりませんが,意外にも (?) 搭乗率はユナイテッドの方がはるかに高いようです.おそらく,北米路線に777しか使っていない (かつ1日2便のシカゴ線が足を引っ張っている?) ANAと違い,ユナイテッドは747・777・787の3機種で細かく供給調整をしているためではないかと思います.また,日本人の感覚からするとサービスは断然ANAの方がよく,積極的にユナイテッドを選ぶ理由はない,というのが普通でしょうが,アメリカの会社は米系と何らかの契約をしていることが多いですし,やはり自国のエアラインの方が安心できるのかもしれません.

大西洋路線に関しては,2015年3月の搭乗率はユナイテッド75.8%,共同事業を組んでいるルフトハンザは76.8% (全体) と,ほとんど差がありません.供給調整の結果か,たまたまか,こちらはうまくバランスが取れているようです.

なお,共同事業は従来同じアライアンスの中で行うのが普通でしたが,最近はアライアンスの垣根を越えた共同事業も増えています.一例はロンドン~オーストラリア間で共同事業を組んでいるカンタスとエミレーツです.カンタスが同じワンワールドでしかもイギリスを本拠とするブリティッシュエアウェイズを差し置いてエミレーツと提携したのは驚きでした.

出資

さらに進むと,ある航空会社が別の国の航空会社に大きな出資をし,事実上所有している場合さえあります.ブリティッシュエアウェイズはイベリア航空,ルフトハンザはオーストリア航空・スイス航空をそれぞれ所有しています.国によっては外国の会社が自国の航空会社の半分以上を所有することを禁じていることもありますが,その場合はぎりぎりの49%を所有して最大株主になってしまうようです.例えばデルタはヴァージンアトランティックとヴァージンオーストラリア,エティハドはアリタリア・エアセルビアなどのそれぞれ49%を所有しています.


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6 thoughts on “共同事業・共同運航

  • 空旅(からたび)

    Takさん

    こんばんは。私が希望しましたテーマを取り上げてくださりありがとうございました!またお礼が遅くなって済みません。m(__)m
    一昨日チェコから帰ってきました。

    いつもTakさんのブログは勉強になります。今回の記事を読んだ雑感をいくつか。
    (1)共同運航というのは、航空券販売業なのでしょうか?例えば、JALは東京・ドバイ間にコードシェアを設定していますが、運航は全てエミレーツです。これを自社便というには無理があります。せめて週1回でも飛ばしていれば話は別なのですが…。運賃は安いものでも20万円位した記憶があります。同じ航空券をエミレーツでは10万円位で販売していたので、差額がかなりあります。社用族でJAL優先の人なんかが、そういう航空券を買うのでしょう。利益がかなりありますが、それは最早旅行代理店の業務で、航空会社の業務ではないような。この1便も飛ばしていない区間の共同運航便には少し悲しくさせられます。
    (2)共同事業では、売り上げの他にコストも共有されるのですね。そうしますと、以前Takさんが述べていた、ANAは機内サービスに金をかけすぎだからもっと削れとUA側が苦情をつけている可能性はあるかもしれませんね。
    (3)UAの方が搭乗率が高かったことも意外でした。UAのB777機材のY席は1列10席だったと記憶しています。一方ANAは9席です。体の大きなアメリカ人は、ANAを選んだ方が快適だと思うのですが、知っていてUAを選んでいるのか気になります。

    • tak Post author

      空旅さん

      いえいえ,こちらこそネタを提供していただき,ありがとうございました.
      そもそも機材繰りが大変などの理由で自分で飛ばしたくない路線を共同運航にすることが多いので,仕方ないところもありますね.例えばロンドン発着のヨーロッパ内路線をJALが運航するのは大変なので,BA便を共同運航にしてJALの乗客の便宜を図っている面もあります.
      UAの777は「まだ」3-3-3だと思います.米系で初めて10席にしたのはAAの777-300ER (Main Cabin Extra以外) で,UAも777-300ER導入時に追随するのではという憶測はありますが・・・ 逆にアメリカ人にはANAの座面が前に出てくるシートが不評のようです.

      • 空旅(からたび)

        Takさん

        こんばんは。ご回答ありがとうございます。いつもTakさんは他の方のコメントにも必ず返信しているように見えます。すごいですね。

        共同運航について、相手の拠点から先に設定するというのはまだ分かるのです。先の東京・ドバイの場合は、東京はJALの拠点ですので、そこから1便も飛ばさずに便名だけ付与というのはどうなのかなと思った次第です。
        ところでまた疑問がわいてきたのですが、他社の拠点から先に自社便名を付けることの利点というのはマイレージ以外にあるのでしょうか?荷物が通しで預けられるという利点もありそうですが、アライアンス加盟航空会社同士でしたら、そもそも問題ないように思えます。例えば、ある人がJALで東京からロンドンまで来たとしまして、そこからBA運航便でフランクフルトまで飛ぶとします。BA便名のままの場合と、JAL便名をわざわざ付与する場合では、マイレージ以外で何か変わることはありますか?変わらなければ、BA便名のままでも良いように思えます。

        ご存知でしたら教えてもらえると嬉しいです。周りにマイレージの話ができる人がおらず、ついつい日頃の疑問をぶつけてしまいました。お忙しければ結構ですので。
        それでは。

        • tak Post author

          空旅さん,こんばんは.

          共同運航の利点としてすぐに思いつくのは,1社の通し (割引) 運賃が使えることです.この例で言えば,NRT-LHR-NRTをJL,LHR-FRA-LHRをBAの運賃で計算すると,JLが出しているNRT-FRA-NRTの運賃よりも割高になることが多いと思います.
          ドバイに自社便がないのは何か理由があるのでしょうが,わざわざ共同運航にするのは同様に日本国内各地からの乗継客に便利なのかなと思います.NRT-DXBの運賃そのものはJLにも安いものがあるので,値段の差は運賃クラスの空き状況の差のためのようです.

          • 空旅(からたび)

            Takさん

            こんばんは。いつも素早い返信ありがとうございます。こういうコメントの返信もなんだかんだで結構時間がかかりますよね。ブログを書き始めたのですが、手際が悪く、時間がかかりすぎ、更新が滞っています。

            なるほど、共同運航の利点に通し運賃というものがあるのですね。TYO-LON-FRAの場合は、LON-FRAがJL便名でもBA便名でも同じ価格になっていた気がしますが、考えてもみると共同事業の設定区間だからかもしれません。共同事業の設定区間外の路線は共同運航便の方が他社便名そのままより安いのかもしれません。

            東京・ドバイにJALが共同運航便を設定しているのは、日本国内の乗り継ぎ客の利便性のためということですね。東京近郊に住んでいるため、日本各地からの乗り継ぎという視点が欠けていました。また、今はJAL便名の東京・ドバイ間にも安いチケットがあるとのこと、知りませんでした。調べたのは5年ほど前でしたので、状況が変わったのかもしれません。当時はJALの上級会員で、ドバイに行く際に、JAL便名で発券して搭乗実績を積みたかったのですが、価格が高く断念した記憶があります。

            今回はご丁寧にありがとうございました!時々コメントさせてもらおうと思っています。よろしくお願いします。

          • tak Post author

            空旅さん

            いえいえ,こちらこそコメントありがとうございます.旅行中などは返信が遅れがちになります.空旅さんこそ,日本時間で真夜中のコメントが多いような気がするのですが (笑).
            便名がJLでもBAでも同じ運賃であれば,JLでもBAでも使える運賃だったのかもしれません.安いほど利用できる航空会社の制約が厳しくなり,JL便名の共同運航便があるかどうかが利いてくると思います.
            適当な日付でNRT-DXBのエコノミー運賃を調べたら,JLが5000円ほど高くなっていました (どちらも10万円前後).運賃はむしろEKのほうが若干高いのですが,サーチャージで逆転するようです.