EUにおけるキャンセル・遅延補償 11


折りしもエールフランスのパイロット組合がストライキ中ですが (会社側が若干妥協したとの最新情報も・・・?),EUでは遅延・キャンセルに対する補償規定がしっかりしています.261/2004という規定で,対象はEU内に本拠地を置く航空会社のEU行きフライト,およびEU内の空港発の全フライトとなっています.つまり,日系航空会社のヨーロッパ発便なども対象です.
補償内容は遅れの幅などによって細かく決まっていますが,だいたい以下のようになっています (こちらを参考にしました).なお,ここで言うタイプ1~3はフライト距離による区分です.

  • タイプ1:1,500km以下のフライト
  • タイプ2:EU内の1,500kmを超えるフライト,およびそれ以外の1,500~3,500kmのフライト
  • タイプ3:EUとEU外を結ぶ3,500kmを超えるフライト

キャンセル
キャンセルの理由に関わらず,乗客は以下のいずれかを選べます.

  • 別のフライトでできるだけ早く目的地へ行く (他社便も選べるかどうかは不明確)
  • 当初のフライトより後のフライトで目的地へ行く (空席がある場合)
  • 全額を払い戻してもらう.すでに出発後であれば,航空会社の負担で出発地まで戻る.

さらに,以下の場合を除き現金による補償 (後述) を受けられます.

  • キャンセルを2週間以上前に知った場合
  • キャンセルをフライト1~2週間前に知り,代替フライトを用意してもらった場合で,出発・到着時刻の変更幅がそれぞれ2時間・4時間以内の場合.
  • キャンセルをフライト1週間前以降に知り,代替フライトを用意してもらった場合で,出発・到着時刻の変更幅がそれぞれ1時間・2時間以内の場合
  • 例外的な状況 (extraordinary circumstances) によるキャンセルの場合

最後の「例外的な状況」 は若干曖昧ですが,機材故障はこれに当たらず補償の対象,火山噴火は例外的な状況に当たる,という判決が出ています.
遅延
遅延の理由に関わらず,2時間 (タイプ1)・3時間 (タイプ2)・4時間 (タイプ3) 以上の遅れが生じた場合は,航空会社が食事代と情報伝達手段 (電話,Eメール等) を提供する義務があります.またフライトが翌日以降になる場合は宿泊代も提供しなければなりません.遅延が5時間を超える場合は,旅行をやめて全額払い戻してもらうことができます.
到着が3時間以上遅れた場合は,キャンセルの場合と同様の条件で現金補償 (後述) が受けられるという判例があります.
なお,何をもって「到着」とするかによって遅延幅は変わりますが,これはドアが開いて乗客が降りられる状態になったときを指す (つまり着陸しただけではだめ) という判決が,つい先日出てきました.
現金補償額

  • タイプ1:250ユーロ
  • タイプ2:400ユーロ
  • タイプ3:600ユーロ

このように,天候では食事代も宿泊代も出さず,機材故障でもマイルぐらいしかくれない米系とは違い,理由に関わらず食事代と宿泊代を出し,航空会社の責任であれば現金で補償するのが義務になっています.
なお,特にEU系でない航空会社はこういう規定の対象になることを乗客に知らせないことも多いようなので,自分の権利を知っておくことが重要です.事後であっても,ここにあるフォームを航空会社などに送り,対応してもらいましょう.


11 thoughts on “EUにおけるキャンセル・遅延補償

  • 素晴らしい情報をありがとうございます!
    欧州便に乗ることが多く(先ほどANA便で帰国したばかりですが、AF便欠航の影響で満席となり、ビジネスクラスにアップグレードされました!)、この情報はいつか役に立つことでしょう。

  • tak-airtravel

    Rさん
    コメントありがとうございます.以前からこの規定は気になっていたのですが,細かい条件を知りたくなりました.
    インボラアップグレード良かったですね!まさに棚ぼたですね.

  • バルセロナ

    はじめまして。いつも役に立つ情報をご提供いただきありがとうございます。大変勉強させていただいています。
    当方、バルセロナに駐在しているのですが、表記のEUのRegulationを使ったことのある人は、私の周りのスペイン人では見かけたことがありません。
    たまたま昨年、ドイツ旅行の際に6時間もの遅延にあったので、Vueling相手に当Regulationと、3時間以上の遅延はキャンセルと同様に補償されるべきという裁判例を根拠に一人当たり250ユーロを請求しているところです。
    最初は自分でVuelingと交渉したのですが、Regulationでは金銭補償は要求されていないの一点ばりで、裁判例の話をしても金銭補償には応じてもらえませんでした。
    ですので、途中から面倒くさくなったので(仕事もありますので)、Redund.meというサイトhttps://www.refund.me/en/ で代わりに請求してもらうことにし、現在、交渉をしてもらっているところです。
    日本法では弁護士法に照らして違法なサービスだとは思いますが、こっちではこのようなサービスがあるようです。(こっちで合法かまでは分かりません)。
    建付けとしては、250ユーロの15%プラスVATを成功報酬としてしはらい、金銭回収がなければこちらに費用負担はないというサービスです。そのかわり、仮に裁判手続きまで進み、遅延損害金や弁護士費用を250ユーロにプラスして損害賠償がなされたとしても、こちらには250ユーロ から15%プラスVATを控除した金額しか帰ってこず、のこりは全てサービス側の報酬になるという建付けのようです。
    先日、当サービスから、Vuelingが規制当局を通じた請求に応じなかったため、スペイン国内での訴訟手続きに移行する、そのため便宜上、私がVuelingに対して有するはずの損害賠償請求権をRefund.meに債権譲渡してくれ(譲渡金額は、250ユーロ回収できたという条件で250ユーロマイナス(15%プラスVAT)の金額)という連絡がきました。
    まあ、先方は、スペインの裁判では当事者が出頭しなくてはいけないから、その煩雑さをさけるため、とか言っていますが、まあそれは正確ではなくウソですが、まあ、私自身の煩雑さをさけるためにも、敢えて信じてみることにして、現在債権譲渡をして、手続きを進めてもらっています。
    以上が現在の状況で、まだ完全に解決はしていないのですが、普段から勉強させていただいているので、情報共有のため、投稿させていただきました。
    今後とも、ブログ楽しみにしています。
    バルセロナにいらっしゃる際は、オフ会しましょう笑

  • tak-airtravel

    法律・判例があっても現実はうまくいかないんですね.LCCだから一層ケチなのかもしれませんが(笑).
    請求代行サービスは便利そうですね! 報酬が15%というのも悪くはないような気がします.しかも回収を前提の譲渡であれば手間も省けますし,裁判の方が敗訴になってもバルセロナさんには関係ありませんから,ある意味では理想的な結末ではないでしょうか.
    アメリカではわりと手軽に訴えを起こせる簡易裁判所みたいなところがあると聞いたことがあります.集団訴訟も盛んですが,弁護士が儲かるだけという噂です.
    バルセロナは10年ほど前に行ったことがあります.街も好きですが,山の上の教会?もきれいですね.今のところは予定ありませんが (スカイチームの安いビジネスクラスチケットにはちょっと惹かれていますが),行くことになったらぜひお願いします.

  • お好み焼きは広島風

    Takさん、バルセロナさん
    年末にヨーロッパ周遊(?)する予定で、非常に勉強になります。
    コペンハーゲンで2泊
    バルセロナで7泊
    チューリッヒで1泊
    バルセロナ泊中に、ニース方面にLCCで飛びたいなと思ってます。LCCでも交渉の余地有と、英語が(スペイン語?)苦手な私でも、交渉のプロに任せれそうなのでいいですね。
    バルセロナさん
    もしお読みいただけましたら、バルセロナで治安が良く、空港や街へ利便性(地下鉄?)の高い地区またはホテルを教えていただけませんでしょうか?(Takさん、コメント欄借りてゴメンなさい)

  • tak-airtravel

    お好み焼きは広島風さん
    またなかなかの大旅行ですね! バルセロナやニースは暖かそうなのもいいですね.
    バルセロナさん
    コメント欄を使っていただいても構いませんが,もしバルセロナさんさえよろしければ,メールアドレスを隠しコメントでお知らせいただければお好み焼きは広島風さんにお伝えしますが,いかがでしょうか.

  • かっちゃん

    Tak様
    いつもお世話になります。
    ようやくNYCへ戻ってこれました。
    今回、エールフランス航空のストライキで
    振り替え便も含めて結果3便が欠航となりましたが、
    振り替え便が結果として当初予定より早まったスケジュールとなったため、補償が受けられるかどうか・・と思いながら現在発券元のデルタに交渉中です。
    タイムリーに良い情報をありがとうございました。
    またご報告させていただきますね。

  • tak-airtravel

    かっちゃんさん
    無事に戻られたようで,よかったです.予定より早ければ補償は難しいでしょうね.代替ルートの距離がもとより短ければ,もとのルートでマイルを加算してもらうぐらいでしょうか.

  • かっちゃん

    あれから2か月半の亀レスですが、「満額回答」をいただくことができました。Takさんがおっしゃるように到着は本来よりも早かったのですが、担当者からのメールによると「この事例であればEUの保障規定が適用される」とのことでした。
    ただ、ケースバイケースや担当者次第というところもあろうかと思います。いずれにしても、できればこの保障規定が適用されないようなスムースな旅程でいけることが一番ですね。

  • tak-airtravel

    かっちゃんさん
    時間はかかりましたが,よかったですね.出発も早くなったのであれば補償の対象になるかと思いますが,おっしゃるとおり予定通り飛べるのが一番いいですね.

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