日本では国交省を間に挟んでJALとANAがバトルを繰り広げていますが,アメリカでは米系と中東系が争っています.というか中東系の北米進出に米系が脅えていると言ったほうが正しいでしょうか.
エティハド,エミレーツ,カタールなど中東系の航空会社が元気なのはご存知の通りです.エミレーツは先日からドバイ~ミラノ~JFK線に就航,来年3月からはドバイ~ボストン線を開設.エティハドも来年6月にロサンゼルス乗り入れを果たします.カタールはワンワールドに加盟し,中東系で初めて三大アライアンスの一員になります.しかも中東系航空会社のサービスや機内食はアメリカでも評判がいいですから,米系が戦々恐々とするのもわかります.
これが米系のサービス向上につながるかと思いきや,アメリカの航空会社などが加盟する業界団体は「競争環境が公正でない」(ん? どこかで聞いたような・・・) という声明を出しました.いわく,
- 米系航空会社は過大な税金と規制を強いられ,政府のインフラ整備予算も十分でない
- それに対し,エミレーツは非課税など政府のバックアップを受け,設備の整った空港が使える
ということです.
業界団体の要求はたくさんあります.比較的まともなのは
- 外国企業による航空会社の保有割合の制限を継続
- 新規に結ぶオープンスカイ協定に,アメリカ航空業界の雇用を守るための条項を入れる
- アメリカへの観光客を増やすため,ビザ免除プログラムを拡大する
- 外国企業がボーイング機を購入する際の輸出入銀行による援助をやめる
あたりのようです.最後の項目について私は知りませんでしたが,外国の航空会社がボーイングのワイドボディ機を買うとき,必要に応じてアメリカ政府 (輸出入銀行) が債務を保証するそうです.もともとはボーイングを筆頭とするアメリカの航空機産業の国際競争力を高めるための国策だったようですが,逆に外国の航空会社を米国民の税金で助けていると言えば確かにそうです.
ただ,かなり極端な要求もあるようで・・・
- 広告等に税・サーチャージを含む総額を表示しなければならないという規制の撤廃
日本などでは初めベースの運賃だけが表示されていて,実際に支払う段になって燃油サーチャージなどが加算されて驚くことがありますが,アメリカでは最初から総額を表示しなければなりません.そうでないと比較が難しくなりますから,むしろ外国でも取り入れてほしいところです. - 安全に関係しない消費者保護策 (悪天候時の離陸待ちなどで飛行機に3時間以上閉じ込めると罰金,など) の一時停止
この「3時間ルール」は確かに賛否両論あり,あと少しで出発許可が出そうだったのに3時間のリミットが近づいたのでゲートに引き返した,という例もあったそうですが,それ以前は水も出さないで何時間も閉じ込めていた,なんていう恐ろしい話もあったことを考えると,若干柔軟にするとしても残した方がいいのではないかと思います. - 新規参入の制限
これに至っては1970年代の規制緩和以前に戻るの?という感じです.
アメリカの航空会社は,サービス向上などで真っ向から勝負する気がなく,政府の助けでなんとか切り抜けようとしているようです.