お騒がせ乗客が起こした事件については,先日も特に変わったものをいくつか取り上げたばかりですが,乗員の指示に従わない乗客や,乗客同士の小競り合いぐらいならもっと頻繁に起きているようです.で,そうした反社会的な行動は格差,つまり飛行機で言えばファースト・ビジネス・エコノミーというクラス分けによって増えるらしいという研究結果 (全文を見るには購読が必要) が発表されました.いつもながら統計データは解釈が難しいのですが,話のネタとしては面白いので私の解釈を加えてご紹介します.
事件が起きたキャビンはエコノミーが84%,ファーストが15%と当然ながらほとんどがエコノミーですが,そもそもファースト客が少ないことを考えると乗客数比では意外と拮抗している感じもします.これをさらにファーストキャビンの有無で分けると,1000フライトあたりの事件数はこうなります.
- エコノミー・ファーストキャビンあり:1.58
- エコノミー・ファーストキャビンなし:0.14
- ファースト:0.31
分析によると,事件発生率にはフライト時間など他の要素も関係していますが,それを除いてもファーストクラスがあるだけで発生率は3.84倍にもなるそうです.またファーストクラスありのフライトだけで比べると,機体前方から搭乗する (ファーストキャビンを通る) 場合の方が機体中ほどから搭乗する場合に比べて発生率が2.18倍,つまり広いファーストシートやシャンパンを啜っている姿を見せ付けられるといらだちが倍増するということになります.面白いことに,前方搭乗の場合はファーストでの事件発生率も11.9倍に跳ね上がります.論文では,ファースト客も自分より立場が下の人たちを見ることで優越感が生まれ,乗員に対する不満・要求を爆発させやすくなるのではないかと推測していますが,それにしても倍率が大きすぎるような気がしないでもありません.
事件発生率に影響する要素は他にもあります.フライト距離と遅延は当然でしょう.座席幅もやはり関係するようですが,逆にシートピッチはあまり関係なかったそうです.米系がこれまでピッチの広いシートを売り込んできたのは,機内の平和維持にはあまり意味がなかったのかもしれません.また国際線が国内線より発生率が低いのは,無料の食事が出るからでしょうか!?
ところで,機内トラブルのデータはある「国際的な大手エアライン」から2010年頃のものを提供してもらったそうですが,航空ファンとしてはどのエアラインかを推理するのも一興です.ヒントは
- 3キャビンのフライト数は全体の0.03%.
- フライト数で3.6%を占める機種は2キャビンと3キャビンが混在していたが,3キャビンフライトでの事件はなかった.
- ピッチの広いエコノミー席の影響も分析したかったが,順次導入しているところでデータに区別がなく断念した
の3点.世界中のエアラインとなると範囲が広いですが,著者はカナダ・アメリカの大学所属ですし,北米系の可能性が高いと思います.2010年といえばデルタとノースウェストの合併はほぼ完了していましたが,ユナイテッドとコンチネンタルの合併は話が始まったところ,USエアウェイズはまだ健在でした.当時すでにユナイテッドとアメリカン以外は国際線ファーストを廃止していたはずなので,3キャビン機材がある北米系ならこの2社に絞られます.さらに2010年にすでにエコノミーにピッチが広い列があったということを考えると,どうやらユナイテッドのようです.その頃はまだ767に国内線用の2キャビンと国際線用の3キャビンがあったこととも一致します.3キャビンのフライトが0.03%しかなかったというのは少なすぎるような気もしますが,フライト数では国内線が圧倒的に多いのでそんなものかもしれません.またユナイテッドのエコノミープラスはとっくに全機導入済みだったはずで,合併を控えてエコノミープラスを導入しつつあった (かもしれない) コンチネンタルの数字も入っている可能性もあります.
こういうの面白いですね!
現代の回帰分析は相当に強力で、ちゃんと有意差のあるものないものを分けてくれて、間違いなく関係すると思ってたものが無関係だったりして興味深いです。
F/C席を見ながら搭乗、あれほんとやめたほうがいいと思いますねえ。
前方搭乗でFの問題発生率が上がるのは、優越感よりは、タキシングまでに浴びるevil eyesの影響では?!w
Tomさん
Junさんご指摘の問題もありますし,まあ話のネタぐらいに考えておいていただければと思います (笑).L2からの搭乗は機種によっては難しいのでしょうが,私もL1からの搭乗はお互いいやだと思います.
この論文、統計手法の選択が正しくなく専門家からは全く信用されていません。
「3.84倍」という数字に意味は無いと考えたほうがよさそうです。
(本当にそういうことがおこる確率は1倍かもしれないし6倍かもしれない)
そもそも発生率が 件数/1000 フライト で求められていますが、Fを装着している機材のほうがYシートの数も圧倒的に多いので、そういう人が乗り込む確率自体が高くなります。
またFがUS国内線のFなのか、国際線のFなのかも明記がありません。
Jun@SJCさん
私から見ても不思議な数字がちらほらあったので,専門家から見ると突っ込みどころ満載なんでしょうね.私としてはブログネタになったので許します (笑).
確かに,変数としてはフライト時間も入っているので,なぜ最初からエアラインの業績のように人・マイルで計算しないのかは謎でした.3.84倍かどうかは別にして,ファーストクラスがあることで発生率が上がる可能性が非常に高いのであれば (論文はそう主張しているように読めました),それだけでも面白いと思います.
どうせだったらL2の前と後ろで綺麗にFとYが分かれる機材だけに限定して1年間前向き研究すればよいのですけれど。
もしこの傾向が本当なら、追加のコスト払っても搭乗ブリッジ2本掛けた方がよいことになりますからね。
A380の2階の後ろに少しだけあるYとか、考え直すことになるかもしれませんし(笑)。
Jun@SJCさん
ノイズのないデータを取るにはそれしかないですね.しかし,普通はL2を使う757でも空港やゲートによってはL1から乗り降りすることもあり,大変そうです.
調査するにしても対策をとるにしても,ダイバートに至るほどのトラブルはニュースになるほどまれなので,費用に対して小さなトラブルを減らす効果がどのくらいあるか,ですね.